2010年01月20日

【読了】確率の理解を探る〜3囚人問題とその周辺〜【三】

ゲーム理論の本を読んでいると必ず「囚人のジレンマ」という話が出てくる。
詳細な解説はWikipediaに詳しいが、私が過去に読んだ本の中でこの問題に関連して紹介されていた参考書籍が本書。
比較的学術的(共立出版で日本認知科学会編)な本なので、出回る量も少なく、よって値段も比較的高め。
個人で買うのはためらっていたが、会社のライブラリで検索したら偶然にも存在したので借り受け、読了した。

まずはAmazonから目次引用。
第1部 3囚人問題とその背景
 ・条件つき確率とベイズの定理
 ・3囚人問題とは
 ・分析と実験の始まり
第2部 3囚人問題をめぐる数理と心理
 ・事後確率はどう振舞うか
 ・3囚人問題はなぜ難しいか
 ・納得の方略をめぐって
第3部 3囚人問題を超えて
 ・事後確率を推定するプロセス
 ・問題理解における形式的表現と日常的行為
 ・同型図式による問題の理解と解決


本書のテーマはタイトル通り、3囚人問題とその変形版が中心となる。
同型の問題として「3ドア問題」とか「モンティ・ホール問題」と呼ばれることもあるこれらもまたWikipediaに詳しい(Wikipediaってすごいねー)。

問題は次のようなものだ。





ある監獄にA、B、Cという3人の政治犯がいて、それぞれ独房に入れられている。罪状はいずれも似たりよったりで、近々3人まとめて処刑される予定になっている。ところが恩赦が出て3人のうち1人だけ助かることになったという。誰が恩赦になるかは明かされておらず、それぞれの囚人が「私は助かるのか?」と聞いても看守は答えない。
囚人Aは一計を案じ、看守に向かってこう頼んだ。「私以外の2人のうち少なくとも1人は死刑になるはずだ。その者の名前が知りたい。私のことじゃないんだから教えてくれてもよいだろう?」すると看守は「Bは死刑になる」と教えてくれた。それを聞いた囚人Aは「これで助かる確率が1/3から1/2に上がった」とひそかに喜んだ。果たして囚人Aが喜んだのは正しいか?

囚人Aの推論は、直感的には正しいと思えるのではないだろうか。
だって、2人残って1人選ばれるのだから、確率は1/2。
ところが、数学的な正解はさにあらず。囚人Aの助かる確率は1/3のまま。

これにはある情報が得られた後の確率を、得られる前の確率を用いて更新する際の数学的な定理【ベイズの定理】が適用されることによる。
この定理は非常に重要で、現実の社会でも広く応用され、気づかないところで我々の暮らしを支えているのだが、それはまた別の話。

ここで大切なのは、数学的な正解と、直感的な答えが食い違ってしまうところにある。
「1/3というのはまあそうなのかもしれないが、どうして1/2が違うのか」という点について、普通はもやもやが残ってしまうものだ。

ついでにそんな直感と本当の確率が異なる問題を2例。

ある国に1000人に1人の割合である病気にかかっている人がいます。
その感染判定をできる検査薬を使うと、感染している場合には98%陽性反応が、非感染の場合には99%陰性反応が出ます。
ある人がこの検査薬で陽性反応が出た場合、この人が本当に感染している確率はどのくらいでしょう。

自分に陽性反応が出たら、普通は「感染したに違いない」と思う。人によっては「結果が正しい確率は98%」と短絡的思考に陥ってしまうに違い。これが死に至る感染病で、かつ治療法がないとしたらパニックに陥る。
ところが、実際の感染確率を計算すると、8.9%にしかならないのだ。

ある町では緑のタクシーが85%、青のタクシーが15%の割合で走っている。
この町でタクシーによるひき逃げ事件が起き、目撃者は『青いタクシーがひいた』と証言した。
ところが、この目撃者の識別能力を検査したところ、同様の状況では20%の確率で間違えて逆の色を答えてしまうことがわかった。
さて証言通り、青のタクシーが犯人である確率は?

自分が裁判員になって同じ情報が提示されたら、どう判断するか。
計算された確率では青が犯人である確率は41%。まだ半分以下である。


さて、前置きがだいぶん長くなったが、本書ではこの直感と正解が食い違ってしまう事象について、3囚人問題を変形させ、実際に多くの人に取り組んでもらうことで見解を述べている。
変形のさせ方としてはたとえば、囚人の釈放される確率を等分の1/3から、1/4、1/4、1/2と変更する。この場合、看守が「Bは処刑される」と答えた場合の、Aの釈放確率は1/5となる。
驚いたことに、事前確率の1/4から、情報を得ることによって助かる確率が1/5へ減ってしまうのだ。

さらに、
 ・看守への質問の仕方を変える(Aが聞いたのではなく部外者が聞いたことにしてみる)
 ・看守が迷ったときの選択確率を変える(B,Cどちらかを答えるのに迷ったら必ずBを答える)
 ・囚人の数をN人に拡張する
などと変化させ、それぞれの考察から3囚人問題がなぜ理解しにくいのか、また理解するにはどのような方法があるか(本書ではルーレット表現を提案)について、学会や論文でのやりとりをふまえながらわかりやすく解説されていく。

目次にあるとおり本書は3部構成ではあるが、第3部はより認知心理学よりな話になるので、個人的には第2部までで十分楽しめた。
また、使われている数学は高校1年生程度のもので大丈夫なので、3囚人問題やベイズの定理なんかに興味がある方には、おすすめできる。


それにしても確率とは恐ろしい。
一般に「起こりやすさ」の指標として、毎日の天気予報を始め生活にとけ込んでいるが故に、誤った情報に人は簡単に流されてしまう。
ベイズの定理が活躍する、事前確率・事後確率というのは何かを予測する上で非常に大きな役割を果たすものだが、そのアップデートに用いた情報がどのような背景から得られたのか、どのような意味を持っていたのかを正確に知らないと、悪意ある誘導に抗うことはできない。
特にそれが数字となって出てくると、人は無条件に信じてしまいがちだ。
これは統計についても同じことがいえるだろうが、世論調査でも判断根拠でも、出てきている数値がどのようなものなのか必ず疑ってかかる心がけを忘れないようにしたい。
本当に正しい値がわからなくても、一歩立ち止まって考えることは大切であろう。

さもなくば、上記であげた例題のように、かかってもない病気を悲観したり、冤罪を自らの手で生み出すことにもなりかねない。

高校での授業などでも、四角四面に教科書をなぞるだけでなく、その応用について少し情報提供したり、実際の社会と結びつけるような情報を出すことによって、国民のリテラシーは飛躍的にアップしそうに感じる。
現実は、ただでさえ授業時間が足りない中で無理だとは思うが…。





posted by K大 at 22:17 | Comment(2) | TrackBack(0) | 本を楽しむ
この記事へのコメント
フーム 確率って、難しそうで、面白そう、でもやはり難しいですねえ。
Posted by satokazu at 2010年02月04日 11:16
映画「ラスベガスをぶっつぶせ」でよく似た確率論の話が出てたような・・・。

この手の話は、はまってしまいそうだ。
Posted by nakano at 2010年04月05日 01:29
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